むささび生活

2018年1月3日

公園の砂場で立ち上がった僕は、なくしてしまった小さな眼鏡のネジを目を細くして探す。
砂の中に埋もれてしまった小さなネジが放つ、硬い光を見逃すまいと僕は薄く薄く目を細め足元の砂の海を凝視する。

そこには森がある。
目を閉じれば僕にはその森が見える。
息を吸い込めば、濡れた若葉の香りをかぐことができる。

僕は胸いっぱいにその青い湿気を含んだ涼しい空気を吸い込み、巨大な芋虫の背中のような肉厚の緑につつまれたその森を見下ろす。
やわらかく湿った何億という葉に埋もれ、足元にあるかどうかもわからなくなってしまった僕の秘密の隠れ家を探す。

森の中の匿名の一地点に、それは完全に他の生き物に飲み込まれながらも確実にそこに存在している。
まるで見つけるたびに場所が変わってしまうようなどこでもない誰も知らない地点にそれは確かに存在している。

僕は想像する。
森を見下ろす薄く青い空を漂う鷹やトンビもそれを見つけることはできない。
夜を飛ぶこうもりからも人工衛星からも姿を隠し、
神様すら見逃してしまうそれは砂粒に埋もれたひとつの小さなネジで。

まるで巨大な波のようにうねる森の木々に翻弄される一艘の小船のように。
それでも僕の秘密の場所はけして飲み込まれることもなければ消え去ることもなく。そこにある。

僕は想像する。
森の若い草を踏み、秘密の隠れ家の扉を押し開く。
森の中の高い樹に囲まれた僕の秘密の小屋で、僕は朝が来るまでむささびを待つ。
ガラスもない窓の桟にあごを乗せ、ひんやりとした静かな森の空気が部屋の中を通り過ぎる。

暗闇の中に小さく、鋭く光を放つ水滴の。
よく冷えたコップに凝結し一筋流れる水滴の。
停止した時間の中でそれはいつまでも蒸発することもなく。
世界にひとつだけの宝石のように静かに光を弾き続ける。

僕がそうして瞬きもせずに時間に溶けて、宇宙に漂い待ち続けている間にも
みるみるうちに森のつる草は生長し、光を求めて幹をよじ登る。
葉は紅葉することはなく、決して落ちることもなく。
ただ木々が年輪を重ね、乾燥した表皮が老人の顔のように二度と元に戻ることのない硬く深い皺を刻んでいく。

僕はただそれを眺め、いつまでもむささびが来るのを待ち続ける。