たいけつ
黒光りする重そうな机の上にはふるぼけたトースターが乗っていて僕はそいつをみつめていた。椅子はかたくてぴたりと直角で冷たい。しかしここが正念場なのだ。目を離せない。
机を挟んで向かい側にはひげ面ガンマンが座っていてにやにや笑っている。ちくしょうめ。余裕をみせてるつもりだろうがそうはいかんぜ。僕はトースターに目をもどす。
トースターはジジジと熱い音をたてている。いまにもカタカタ動きだしそうだけどもちろんそんなことはない。すこしななめに向いて辛抱強くジジジと言っている。
「はあー。」とガンマンが酒臭い息を吐きかけてくる。僕の顔を見てにやにや笑ってみせる。この野郎め。
ガンマンはだらしなく椅子に腰掛けている。革のベストが擦り切れてテカテカ光っている。腰のホルスターから鈍くひかるリボルバーがのぞいている。僕はなるべくそのことは考えないことにした。僕は拳銃どころか武器になりそうなものはなにひとつとして持っていないのだ。トースター。
じりじりと熱をあげている。トースター自体が熱をもちまわりの空気がゆらゆらと揺れている。もうすぐかもしれない。
「おれのおやじはよ。」突然ガンマンがおやじの話をはじめる。
「おやじはおれになんべんとなくなにごともあれだ。ようはおめえ勝ちゃあいいんだってことをおれに教えてくれたわけだ。おめえ。」とガンマンは言った。へへへと笑ってみせる。気にいらん。断じて気にいらん。ガンマンは痴呆じみた笑いを浮かべてだらしなく口を開けている。前歯が2本なくなっている。
僕はできるだけの殺意を込めてガンマンをにらみつけてみた。なんともならん。
ここはしかしとりあえずこのあほガンマンの言う事から学ぼう。勝ちゃあいいのだ。イエス!僕はこのあほガンマンをこてんぱんにやっつけてやるのだ。ガンマンはニヤニヤ笑っている。歯はまっ黄っきだ。しぬまで歯磨きなどせん。という歯だ。歯ぐらいみがきやがれあほガンマンめ。
僕は厚い木の机のヘリを両手で握った。ちゃぶ台のようにひっくり返してやりたかった。しかしこの重量感。絶対無理。そしてトースター。
トースターはいまや最終段階に入っていた。規則的にカタンカタンと音をさせつつコイルを限界まで熱している。灼熱である。
ガンマンはまるで頓着しない。ベストの胸ポッケから赤いバンダナをとりだして口のまわりをふいている。ケチャップがついている。なんたる隙だらけ。おそらく隙だらけ人生。こいつめ。
「これだけは言っておいてやる。」ガンマンがまたしゃべりだす。
「おめえはよ。おめえは金輪際ビタいち靴墨とクソの見分けもつかねえ。そうだろ?」うひゃひゃひゃ。嬉しそうに笑っている。あほだ。こいつは自分の言ってる言葉の意味もわかっちゃいない。おそらく歯ブラシの使い方も知らない。
「おめえにゃあこれがお似合いだ。」ガンマンはそう言ってホルスターから拳銃を抜いた。ついに。
うれしそうにだらしなく笑っている。僕はまた机のヘリをつかんだ。ひっくり返してやりたい。どうしてもひっくり返してこのあほガンマンをサンドイッチにしてやりたい。しかしびくとも動かないこの机。重い机。これはもしかして床に打ち付けてあるのだろうか。
「おめえにゃあよ。鉛の玉がお似合いだってんだ。」うひゃひゃひゃ。笑ってる。ちくしょう。前歯もないくせにこのガンマンはよく笑う。ああ。トースター。
いまやトースターは。トースター?あれ?
灼熱の怒りに身を震わせていたトースターは知らぬ間にひっそりと静まり返っている。無人君。
そのおかげでまわりの空気も机のにぶい光も現実感を取り戻している。だめだしかし無人君。
ガンマン。いつのまにか葉巻をふかしている。やられた!こいつめ見かけほど馬鹿ではなかった。反撃のチャンスは潰えた。
「わかったかい。」ガンマンが勝ち誇る。しかし!しかしまだまだ。
僕は机のヘリをつかむ。絶対に負けん。この机をひっくり返してあほガンマンをサンドイッチだ。 床がメキメキと音をたてる。トースターなど、いらん。