オオカミ日誌

2018年9月17日

オオカミがでたそうだ。
もじゃもじゃの髭で覆われた熊のような男がすっかり慌てて報告に来た。
「み、みどり色で、でっけくてよ。」ということらしい。
僕は日誌に「緑色」と書きこんだ。
 月曜日の朝だというのに日誌にはもう書き込みが三つもある。僕は鉛筆を削りなおして「でっかい」と書き足した。これで四つ。
 時間が空きそうなので卵焼きを作って食べる。ここには毎朝新鮮な卵が届けられるのだ。この仕事を引き受ける時に条件として言っておいたからである。
 「わかりました。引き受けましょう。そのかわり毎朝新鮮な卵を届けて下さい。できたら新鮮な胡椒とあぶらののったベーコンも。」
 おかげで毎朝僕はとびきりうまいベーコンエッグを食べることが出来る。卵はまるで今生まれてきたみたいにまだあったかくて割ってみると黄身がポンと跳ねる。胡椒は鼻から煙がでるくらい良い香りがするし、ベーコンの油はフライパンの上でさざなみをたてている。世界中のカリビアンパブを探してもこんなにうまいベーコンエッグを出す店はそうはない。

ココンとドアがノックされて小さな人が入ってきた。
 「オオカミを見ましたよ。」と小さな声で言う。僕は日誌の前に座り鉛筆を握って話を聞く。
 「こんなに大きくて、」と小さな両手をいっぱいに広げて言う。
 「こんなものではないのですよ。もっともっとこのぐらい大きくて、」
 小さな人はぐっと胸を張って腕を広げようとしている。
 「こんなに。こーんなに。こーんなにぐらい。」
 小さな人は顔を真っ赤にして腕を広げているけれど、どうしても今日のオオカミを表現するには足りないようだ。口までいっぱいに開いている。
 「わかりました。それはもっとこれくらい大きいのですね。」
 僕は手を広げて見せた。とにかく納得させてあげなくては。僕の仕事はそういうものなのだ。
 小さな人はそれを見て少し考え込んだ。
 「いいえ。もっとです。もっとこれぐらいです。」
 小さい人は自分の両手の指先を交互に見て僕の顔を見る。とにかくもっと大きいようだ。「こーんな。」と言って目までいっぱいに開いてる。
 「わかりました。きっとこーれくらいですね。」
 僕はさっきよりも思いきって両手を広げた。どうやらとても大きいオオカミのようだ。小さい人はじっと僕の広げた両手を見つめて考えている。今朝のオオカミはあれぐらいだっただろうか。いやいやきっともっともうすこし大きかったようだぞ。
 「そうですね。もう少し、もう少しこれくらい。大きかったようです。」
 僕は日誌に「とにかく大きい」と書き込んだ。小さな人は納得いかないような顔をしている。仕方ないこういう時もある。
 「他にもなにかありましたか?」僕が聞くと小さな人は思い出したように目をパッチリひらいて腕を振りまわした。思い出すと興奮するようだ。
 「そうですそうです。ありました。シッポがとっても長いんです。」と言った。
 そしてまた両手を広げて「これくらい。こーれくらいながいんです。」と言っている。僕は「とにかく尻尾も長い」と書く。これで六つ。
 おおかみ日誌の仕事も結構たいへんなのだ。 (K)