くじら狩り

2018年9月17日

どんなクジラにだって弱点はある。あきらめてはいけない。

どーんというものすごい音がして船が大きく揺れた。
「でたぞお!あいつがきたあ!」
甲板で誰かが叫んでいる。ついに来たな。
わたしは磨き込んだ銛を手に甲板へと飛び出した。
外はぽっかりと晴れている。きれいな青空である。
そとに出ると髭の塩辛船長がでっかい声で指示を出していた。
「全速前進だ!あいつを追うぞ!」
塩辛船長の指差す先には水平線しかみえない。
しかし船乗りの特別な目が海面の下に潜るクジラの影をとらえているのだ。

銛撃ちの太平じいは荒縄を体にまきつけてすでに舳先で海をのぞいていた。
「太平じい!どうだ?」
わたしは舳先に走り荒縄を銛にくくりつけ言った。
「どうもいけねいよ。あいつはやっぱりただのクジラじゃあねえな。」
太平じいは海をじっとみつめて舳先の手摺を握りなおす。
「おめいもしっかりとつかまってな。振り落とされるなよ。」
わたしは言われる通りに手摺にしっかりとしがみついた。
ごるごるっと低い音がしてエンジンがいっぱいにふかされている。
全速で追いつき太平じいとわたしの銛でやつを仕留めるのだ。

海を割って船は進む。飛沫がかかるがかまうものか。
ごうんごうん。船は大きく跳ねながら飛ぶようにクジラを追う。
「太平じいよ!用意はいいかやあ!」
塩辛船長の声が後ろの操舵室のほうから聞こる。
振り返って見ると操舵室の窓から塩辛船長が顔を出しているのがみえた。
髭がわさわさ揺れている。
太平じいが応えようとしないのでわたしは大きく銛をかかげてみせた。
塩辛船長が白い歯をみせてニカッと笑った。ちからこぶをつくり叫ぶ。
「やろうども!行くぞーい!」
船長はこうでなくては。

突然!
今までじっと船がおこす波の下を見つめていた太平じいが叫んだ。
「いけねい!船長!やつは下だあ!船の下にいるぞお!」
そう言うなり太平じいは飛びあがりざま銛を船の下に撃ちこんだ。
ざぽん!一直線に海へと刺さりその跡に船が波を作る。
次の瞬間船が下からものすごい力で突き上げられた。メキメキと船底がきしむ。
「野郎!手応えはあったぞ!」
太平じいはわたしのぴかぴかの銛をものも言わずに奪い取りうれしそうに叫んだ。
「あいつはわしの獲物じゃーい!」
銀歯がキラリとひかる。銛を構える。太平じい。若いなあ。     (K)